「PDC」の失敗から“世界標準”の重要性を学んだ日本――Ericsson エワルドソン氏環境に配慮した基地局「Tower Tube」。風力発電装置を取り付けることも可能だ

 インフラではLTEの足音が近づき、端末側ではiPhone 3GSやAndroidケータイなどがモバイル業界をにぎわせている。

 モバイルブロードバンド時代を迎え、固定網に近い接続速度が無線でも現実のものとなる一方、通信機器業界は撤退する企業やグループの統合など、業界再編のさなかにある。

 通信機器最大手のEricssonで無線ネットワーク プロダクトエリア 担当副社長を務めるウルフ・エワルドソン(Ulf Ewaldsson)氏に、次世代のLTEやHSPAを巡る市場環境について話を聞いた。

ITmedia(聞き手、末岡洋子) 先日、Ericssonの競合であるNokia Siemens Networksが、カナダのNortelからLTEとCDMA技術を買収すると発表しました。これは御社にどのような影響を与えるでしょうか。

ウルフ・エワルドソン氏 Ericssonは、早期にLTEで優位なポジションを獲得しており、この取引がわれわれに影響を与えるとは思っていません。われわれはLTEでは、NTTドコモ、Verizon、TeliaSoneraの3社との早期契約を発表しており、ほかのオペレーターとも同じような話を進めています。

ITmedia Huaweiなど、中国のベンダー勢も追い上げています。Ericssonの強みとは何でしょうか。

エワルドソン氏 我々の最大の強みはスケールメリットです。2Gと3Gで40%以上のシェアを持っているため、市場から多種多様なフィードバックが得られ、これが研究開発や製造面のメリットになっています。

 スケールメリットが強みを発揮するのはハードウェアだけでなく、ソフトウェアでも同じです。Ericssonは世界中で同じソフトウェアを利用しており、容易にアップグレードできます。

 また、グローバルな組織を持っていることも強みといえるでしょう。これは中国ベンダーとの競合で重要な強みになります。われわれには約130年の歴史があり、長い時間をかけて世界市場で成長してきました。世界中の顧客に確かなサポートを提供できます。

 もっとも品質を重視する市場である日本では、新横浜に大規模なサポートセンターを設置しています。

ITmedia LTEの商用サービス開始はいつ頃と予想していますか? 経済危機の影響はあるのでしょうか。

エワルドソン氏 LTEのローンチが経済危機の影響を受けて大きく遅れるとは見ていません。2009年中には、デモ目的かあるいはテストサービスの形でスタートするでしょう。商用サービスの開始は2010年と予想しています。ただし、どの市場でも当初の提供エリアは限定的ですから、本格的な商用化は2011年から始まると見ています。

ITmedia LTE導入を控えている今、HSPA+の役割とはどのようなものでしょうか。またオペレータにとってHSPA+への投資は意義があるのでしょうか?

エワルドソン氏 HSPA+のチップセットとターミナルは、LTEと比べると価格面で大きなメリットがあります。また多くの顧客が、既存基地局のソフトウェアアップグレードのみでHSPA+の実装を開始しています。

 HSPA+の意義ですが、現在のGSMと同じ状況になると思います。GSMは1992年に始まった第2世代の古い技術ですが、利用者数ではいまだに3Gを上回っています。15年以上前に開発された技術がもっともシェアのある規格なのです。3GをベースにしたHSPA+も同様に、今後大きなボリュームになるでしょう。LTEはこれより遅い速度で普及し、2つの技術は平行して使われます。こうなることは、モバイルの歴史から見てとれます。

 HSPA+の速度はこれまで、下り速度が最大21Mbps/上り速度が最大5Mbpsでした。しかし6月にはMIMO技術に対応したことで、下り最大28Mbpsになりました。これに64QAM変調を組み合わせることで、年内に42Mbpsへとスピードアップする見込みです。

ITmedia モバイルWiMAX分野ではノートPCへの組み込みが進んでいます。御社の組み込み戦略について教えてください。

エワルドソン氏 Ericssonは、2020年に500億台のモバイル端末がワイヤレスでネットに接続されると考えています。この巨大市場を目指すためにも、組み込みモジュール戦略はわれわれの非常に重要な課題です。

 数年前にPCに搭載できるモジュールの提供を開始し、現在、HSPA/EDGE/GSMのトリプルモードに対応した製品を提供しています。同時に、“Mobile Broadband”イニシアティブも進めています。われわれのモジュールを搭載したPCにロゴを貼ってプロモーションするものです。

ITmedia PC以外に、どのような端末にモジュールが入ってくるのでしょうか?

エワルドソン氏 ブロードバンドに接続する必要があるもの、接続するとメリットがあるものすべてです。特に、電気や水道などのテレメトリング分野に高い関心が集まっています。駐車場のパーキングメーターも考えられますね。

 モバイルブロードバンドは、LTE/HSPAが主役になります。M2M向けのLTEモジュールも時期をみて投入します。

ITmedia 最新の基地局「Capsule Site」を発表するなど、環境への取り組みも重視しています。

エワルドソン氏 モバイルブロードバンドの普及に向けて、都市向けの基地局を設計しました。「Tower Tube」を手がけたトーマス・サンデール(Thomas Sandell)氏がデザインしたもので、24時間~48時間という短時間で設置できるのが特徴です。ボディに複合素材を利用し、ユニークな冷却メカニズムを持たせるなど、環境にも配慮した基地局です。

ITmedia 日本市場をどう見ていますか?

エワルドソン氏 日本市場は新しい技術のパイオニア的存在です。世界に先駆けてNTTドコモがサービスを提供したW-CDMAは、日本政府とドコモの強いプッシュがあったから成功しました。現在、W-CDMAの普及率は日本が世界最高レベルです。

 LTEの開発でも、NTTドコモが重要な役割を果たしました。4Gにスムーズかつ早期に移行するものとしてNTTドコモが3.9Gを提案し、これがLTEとなりました。ほかのオペレーターもこれを支持しています。

 これは独自仕様だったPDC失敗の成果でしょう。日本はPDC失敗を受け、早い時期に世界標準の重要性を学びました。EricssonはNTTドコモのLTEベンダー候補として選ばれており、現在プロジェクトを進めています。

 日本市場のもう1つの特徴が、CDMA2000の存在です。日本ではこれまでW-CDMAを採用するキャリア(ドコモ、ソフトバンクモバイル、イー・モバイル)と、CDMA2000を採用したキャリア(KDDI)が共存してきました。KDDIはLTEへの移行を表明しています。米国では、(CDMA2000を採用していた)VerizonがLTEへの移行を発表しており、CDMA2000の標準化を行ってきた3GPP2のグループがLTE採用に動いています。3GPP2は当初、UMBを進めていましたが、その仕様は実質的にLTEと融合されることになりました。

 同時に、中国が開発した3G標準であるTD-SCDMAもLTEへの移行を決定しました。これはTDD方式を採用するのでTDD LTEと呼ばれます。

 このようにLTEには、いくつかの標準規格が統合されていくでしょう。

Posted by kitla at 痞客邦 PIXNET Comments(0) Trackback(0) Hits(52)